掲示板

2017年03月01日

離島入門

離島入門 第15回 食材探しの旅 利尻島8

島へ食材を探しに行く際、時間は限られているので、事前にある程度の食材の情報は調べておきます。ただ、現地に行かないと出会えない情報も沢山あります。
利尻島での「たちかま」との出会いは、まさに現地で見つけたお宝でした。
食材探しの醍醐味です。

た ち か ま、と明日のスケジュール欄に、もはや予定ではなく食べ物の名前を大々的にメモをし、 明日お隣の米田商店へお邪魔して、早速仕入れの相談をしてみよう!と、
今晩食べたたちかま料理の数々の味を思い出し、にやにやしながら眠りにつきました。
IMG_4338 - コピー

翌朝、味楽さんのお宅のリビングに降りていくと、1 人の見知らぬ男性がソファに座っていました。

「!!」

家に突然見知らぬ人がいる、東京では考えられない光景も島ではよくあること。
なんだあ、来てたの、と、私の後ろからリビングに来た味楽のおかあさんが当たり前のように男性に話しかける。

「あ、この人、隣の米田商店の社長さんよ。ちょうどよかった、たちかまの話し聞いてみたら。」

 
ちょっと無口で厳しそうな見た目と裏腹に、
社長さんは沢山のことを教えてくださいました。

魚の美味しい焼き方、うにの美味しい食べ方、郷土料理のレシピなど。
島では郷土料理を教えてもらえてもレシピは口伝が殆ど。味付けも長年の知恵と経験から島の方々の身に染み付いてるものなので、大さじ何杯、とか、煮込み何分、などと数値にしてレシピを教えてもらえることは先ずありません。ただ、米田の社長さんは、そのレシピを数値で的確に把握している方でした。

神楽坂のお店でたちかまを使わせていただきたい旨をお話して、 食べた人たちが気に入ってくれますように、と祈りながら神楽坂に購入した試食分のたちかまを、我が子を旅に出す気持ちで箱に詰め送りました。


はじめてのおつかいならぬ、はじめての食材探しはようやく動き出したのでした。

写真 文
辻原 真由紀

2017年02月18日

離島入門

離島入門 第15回 食材探しの旅 利尻島7

店舗満席。厨房大忙し。
突然置かれた状況に戸惑いながら、私は己に語りかけました。
大丈夫、大丈夫。

店のメイン商品、「焼き醤油ラーメン」
利尻昆布を贅沢に使った濃厚な出汁で、具材とスープを提供前に焼くラーメン。
だから焼き醤油。
具材はチャーシューに海苔にネギちょっと多め。食いしん坊の事前情報はバッチリだ。しかも、離島キッチンで毎日ホールの仕事はやっているし。

臆病な私に、必死な私が脳内で語りかけている。大丈夫。
周りにあったメモ帳とペンを持ち、取り敢えずお客さんのもとに向かう。

一歩踏み出してしまえば、その後はどんぶりを持って行ったり、ビールを注いだり、麺にネギを盛ったり、もやしを冷蔵庫からだしてきたり、食器を洗ったり。初日なのに遠慮なく、色々仕事を任せてもらえるのがありがたい。
どんぶりの熱くない持ち方やきれいなネギの盛り方、やりながら教えていただく様子はまさによく民間企業でも聞く OJT そのもの。あっという間にお昼の営業時間が終わりました。他のスタッフさんが「ありがとねえ~」と声をかけてくれます。

離島キッチンではお店に立つようになって約半年になろうかという頃だったので、
その経験を活かして遠く離れた利尻島でもお手伝いができたことは、少しだけ自信になりました。

その日の夜は、お宅の夕食を味楽さんのご家族と一緒に。

「昆布で出汁をとるのが面倒だと思ったことはないねえ」おかあさんが調理する傍ら、
レシピや島の郷土料理の話を聞きながらノートにペンを走らせます。出汁をとる、という行為ひとつとっても、利尻昆布の名産地のこの島では、その意識が東京とはまるで違っています。島の家庭料理の話を聞くのは、いつもとても面白い。
IMG_4387  
IMG_4391
蒸うにのお吸い物、ソイのおさしみ、ホッケのかまぼこ、島魚のお寿司、カラッっと上がった何かのフライ。
贅沢な食事がならんで楽しい宴がはじまります。何気なく近くにあったフライを食べてみて、私はその中身を二度見する。ふんわりとした触感に噛みしめて感じられる旨味。

これは、なに?
IMG_4395
私の心の声が聞こえたのか、「たちかま、だよ。知らなかったか?利尻でよく食べてるやつ」と、おかあさん。「これは、島のどこで作ってるんですか?」と私。すると、おとうさんが、だまって、窓の外を指さしました。そこには、「米田商店」とかかれた看板。すぐ隣の建物でした。

【島のお店のご紹介】
・ 利尻らーめん味楽 ミシュランビブグルマングルメにも掲載されたお店です。 利尻昆布だしをふんだんに使ったらーめんが味わえます。
「利尻らーめん味楽」さんが、新横浜のラーメン博物館に2017年3月1 日から出店します!島ラーメンが都会でも堪能できます。
http://www.raumen.co.jp/shop/rishiri.html

写真 文
辻原 真由紀

 

2017年02月14日

離島入門

離島入門 第14回 食材探しの旅 利尻島6

初めての人に会う時や電話をする時、必要以上に緊張してしまう自分の癖は、
8か月前、初めて海士町に行った時からあんまり変わってないなあと思いました。

「いらっしゃい!こっちだよ!荷物持つよ!さ、上がって上がって!」
宿泊予定の味楽の玄関で、元気よく出迎えてくださったのは、お店のおかあさんの祐子さんです。

相棒の巨大スーツケースが一瞬で味楽さんのお家に受け入れられた安堵感と、分け隔てのないおかあさんの明るさに、これから自分の経験することに対するワクワクがすでに戻っていました。緊張からワクワクへ行くまでの時間が昔よりも短くなったのは、島旅に対する度胸が少しついてきたかもな~なんて安易な考えが脳裏をよぎります。

一通りお宅の中の設備について、泊まらせていただく2階にある部屋で説明を受け、おかあさんは、一枚のTシャツを私に手渡しました。お土産?と呑気に考えていると、
「さ!時間!」と、おかあさんは下の階を指さしました。 

IMG_4354
1階はお店になっています。気づいてみれば、お店がオープンしたばかりの時間でした。手渡されたのは、お店のユニフォームで、泊めていただくせめてものお礼に、とお店を手伝わせていただく約束をしていたのでした。

忙しい時間にお邪魔してしまった自分を反省しつつ、慌ててTシャツに着替え、
お店の厨房に出ていきます。

「やあ、いらっしゃい~」

おとうさんは、手際よくフライパン片手にスープと具材を炒めながら、顔を私の方に向けました。客席を見渡してみると、ほとんど満席。店内のスタッフさんは忙しそうに動き回っています。すいませ~ん、すいませ~ん、と何組かのお客さんが呼んでいる。

「じゃあ早速、あちらのお客さまの注文とりに言ってくれる?
 うちのメイン商品は『焼き醤油ラーメン』だからね」
店内の忙しさに反して、お父さんの口調はとても穏やかです。

ユニフォームに袖を通してから数分。突然迎えた局面です。
IMG_4331

写真 文
辻原 真由紀

2017年01月31日

離島入門

離島入門 第13回 食材探しの旅 利尻島5

 

利尻滞在2日目。私は宿泊予定のラーメン屋さんに向かいながら、ここへ向かういきさつを思い出していました.。

……

「辻原さん、利尻島にミシュランガイドに載ったラーメン屋さんがあるんですよ。」
「え?」 

とある日の午後、洗った食器を拭きながら、アルバイトスタッフのはまちゃんが放った一言に、私は食い気味で聞き返す。 

大学時代、利尻島でインターンをしたことがあるはまちゃんは、そのラーメン屋さんに泊めてもらったそう。噂によると利尻らしく昆布だしを使ったラーメンらしい。そんな彼女の一言が頭の片隅にあったのも、利尻を行き先として選んだ理由のひとつでした。
焼き醤油らーめん 

店の名は味楽(みらく)。
お父さんとお母さん、ご夫婦2人で力を合わせやっているお店です。 

利尻行きを決めた私は、そんなラーメン屋さんの話を思い出し、 
すぐさま味楽さんのご夫婦を紹介して!と、はまちゃんにお願いをして、利尻滞在中に宿泊させていただけないか電話してみることにしました。

東京にいる、しかも知らない人間から電話、泊めて欲しいという突然のお願い。今考えれば、何とも非常識なお願いの仕方にも関わらず、電話に出た味楽のおとうさんは、

「うんうん、わかった~いいよ~」と快諾して下さったのでした。

どんなにお店が忙しくてもその素振りを見せず、穏やかでいるおとうさんの人柄そのものです。

利尻行きに宿探し。東京での準備が、あまりにトントン拍子に話が進み、「私、こんなにラッキーで運使い果たして無いかな?」と、すぐ不安になり、「でも、まあいっか!」と 楽しみが勝って楽観的になってしまうのが私の性格。 


…… 

相棒の巨大なスーツケースを島中ゴロゴロゴロと転がしながら、島の人たちが奇妙がって私の大荷物に向けてくる視線に気づきながら、そんなこんなでラーメン味楽さんの玄関にたどり着きました。
味楽玄関
ここでは、どんな人との出会い、体験が待ってるんだろう。 
巨大スーツケースを引いた変な人、が第一印象だったらどうしよう。
「人の印象は見た目が9割」って何かで読んだな。動悸がしてきます。 

島の人たちはお宅を訪ねるとき、インターホンなどは押しません。ご近所さんが、こんにちはー!と勢いよくガラっとドアを開けて入ってくる、島でよく見る光景を思い出す。 

勢いよく、元気よく。まるで島の人みたいにさりげなく。怪しくなく。
私は味楽さんのお宅の引き戸を勢いよくガラッとあけました。

「こんにちは」 

戸を開ける勢いとは裏腹に、 挨拶の最後の「は」を言う私の声は震えていたかもしれません。

写真 文
辻原 真由紀 

2017年01月17日

離島入門

離島入門 第12回 「新年のごあいさつ」

10688019_836363196388387_9048572858691533305_o
2017年がやってきました。 

新年の楽しみといえばおせち料理にお雑煮に。
もちろんそれもそうなのですが、
私が1 番楽しみにしていたのは、年賀状です。
昔からこの時期だけは郵便配達員さんがやってくる物音を聞きつけて、 
我先に家のポストの中身を見に行ったものでした。 

インクのにじみやその人の書く文字の特徴、
漢字書き間違いを消したような跡に至るまで
些細なことすべてがメッセージを語りかけます。 

コミュニケーションツールが多様化した今では、EメールやSNSが主流です。
私もよく使いますし、いまもそのおかげでこうして離島入門を皆さんにもご覧いただけているわけです。
が、それでもやはり手書きというのは良いなあ、と思うことがあります。 

以前、神楽坂店にこんなお客さまがいらっしゃいました。
とある日の晩、その方はとても楽しそうに お二人でお食事をしてお帰りになりました。その片付けの時、私はテーブルにメモ書きを発見しました。
そこには一言「拍手!」とありました。
忙しい店内の様子を見て、話しかけずに敢えてメッセージを置いて言ってくださったのだと思います。「拍手」という動作ひとつとっても、涙を流しながら感動する拍手や、頷きながら同意を込めてする拍手、つまらなそうにする形だけの拍手など、いろいろな拍手がありますが、その文字からはなんとなく、お客さまが自然体で無邪気に拍手している様子が浮かびました。
たったこれだけのメッセージが自分を勇気づけてくれました。 

手紙には、紙を前にして届ける相手のことを考えた時間が確かに存在します。メッセージに加え、書き手が届けたい相手のために割いた時間も込められた贈り物のようにも思えます。 

私は離島キッチンのお料理も、手紙と同じだと思っています。一品一品、その料理が紡ぐ島の歴 史や人々の生活に向きあい、その時間が感じられる料理をこれからもお届けできるよう今年も取り組んでいきます。 

本年もどうぞよろしくお願いします。 

文  辻原 真由紀
写真  幸 秀和


 

2016年12月12日

離島入門

離島入門 第11回 食材探しの旅 利尻島4

たどり着いた先、「ムネのところ」とは、「TSUKI」という、利尻出身の店主のムネさんが営むお店でした。さまざまな商品を開発して夏場は漁業にも携わり精力的に活動をしておられます。バーカウンターとお座敷のおしゃれな空間です。
島の人同士は殆どが顔見知りなので、どこかお店に行くにしても、店の名前ではなく、「○○さんのところ」といういい方になるのも島らしいなあとしみじみ感じます。

「ムネ、『島のりのおにぎり』を一つ。この子が一個食うから。」

と利尻町の佐藤さんが注文してくれました。
運ばれてきたのはかなり大きなまん丸のおにぎり。周りにはびっしりと醤油で濡らした「のり」が巻いてある。この海苔は醤油にビタビタに浸すのがうまいんだよ、と教えてもらう。
でも、見た目からすると、普通のおにぎりでは?これが私に是非食べてもらいたい逸品?と少々訝しく思いながらも食べてみる。
_sdi2084
「!」

口の中に広がる香り、独特の風味。お醤油の水分と反応してますます風味が引き立つ気がするし、いつも食べている海苔とは明らかに違う感動。
聞いてみると、「島のり」とは、岩場に自生する海苔のことで、人の手で一枚一枚丁寧に剥がしてつくるそう。
「おにぎり」は日本人の馴染みの食だけれど、この劇的な出会いをまだ味わった人に是非味わってもらいたい。少し高価だと聞くけどお店で出したい。

早速良い収穫があったと、うきうき気分で終わった一日目。
翌朝、東京の神楽坂店へ連絡するついでに、素晴らしい「島のり」との出会いについて、電話に出た代表の佐藤さんに報告する。

「それってもしかして、『岩のり』のことじゃないかな。隠岐にもあって、本当に高価で島でもなかなか手に入らない貴重な食材なんだ。」

私にとって、メニューを企画し、価格設定をして提供をするというのは初めての経験でした。いくら良いと思ったものも、島内において希少で貴重だったり、鮮度と輸送の問題があったり。一つの食材の提供についても、多くのことを考慮しなければならないものなのだということを初めて肌で感じました。ただ、この食材を神楽坂でも出してみたい、という夢見る勇気だけはいつも持ち続けよう、と自分を励ましました。

現実を思い知り、島最初の衝撃の味を神楽坂に持ち帰ることは泣く泣く断念し、
私は次に泊めていただく約束をしていた「利尻らーめん味楽」さんのお宅に向けて出発しました。

【島のお店のご紹介】
利尻島 やきとり・もつ鍋・地酒のお店 月
http://tsukirishiri.wixsite.com/tsuki
利尻島にお立ちよりの際は是非どうぞ!

文 辻原 真由紀
写真 幸 秀和

2016年10月11日

離島入門

離島入門 第10回 食材探しの旅 利尻島3

img_4634
稚内からフェリーでおよそ 3 時間半。 利尻島・鴛泊(おしどまり)港に船が着きました。

空港から出て外気を吸った時、 島ならば船から港を降りてその土地空気に触れた時、
旅をしているんだなと改めて実感します。

冷たかったり湿っていたり、 暑かったり寒かったり。 それまでの日常とは違う感覚が これからの旅を予感させます。

その日の利尻は 6 月の割に涼しくて 湿り気のない、すきっとした空気でした。 しとしと雨が降り、島中央の利尻山には雲がかかっていたというのに その街並みから活気をなんとなく感じたというのが最初の印象です。

「やあ、よろしく」

港に降りて最初に声をかけてくれたのは、 利尻町役場の佐藤さん。
事前に連絡を取り熱心に島の情報を伝えてくれた方です。 シンプルで張り詰めていないその挨拶がかえって自然で、私は安心して、すっと島に降りていくことができました。

到着日の晩は、佐藤さんが呼びかけてくださり、 早速利尻の方々と島の食材を味わうことに。 案内していただいた居酒屋さんのメニュー表を開くと、 たくさんの狙っていた食材、聞いたことのない食材のメニューがずらりと並んでいます。

メニュー選びの瞬間というのは、とてもワクワクします。 今晩の食卓をいかなる料理で彩るか、戦略を練る。 定番もの、食べたことのないもの、直感で気になったもの… 利尻の食への門戸が開かれて、脳内でひとり、今宵のラインナップ構想を練り始めた時。

「よーしじゃあ、端から全部食っていくか!な!」
「初めてならこれも食べなきゃ」
「ちゃんちゃん焼きは外せないなあ」

利尻の方々は私をよそに、すごい勢いでメニューを次々に頼んでいきます。 唖然としていると、 「ちょっと辻原さん何してるの、メモ!あとカメラ用意!」との声。

ワイワイと盛り上がり、私は言われるがまま、食材の情報を記録します。
今晩の食卓の主導権は完全に握られた。でも、頼もしくて、楽しい。
テーブルの上にはずらっと利尻の食が並びます。
img_4301
・ほっけのちゃんちゃん焼き…北海道本土では鮭を使うのが有名だが、利尻ではホッケを使うのが一 般的。味噌とねぎをのせて焼く。見た目のインパクト 。
・ほっけのかまぼこ…「ほっけは買うものではなく、もらうもの。」ほっけをすり身にして揚げる。各家庭で味付けが異なる。
・ぎすこ(ギスカジカの魚卵)…見た目はたらこのよう。濃厚な味。
・ソイの刺身…白身。脂がのっている。噛むほど旨味。
・ホヤの塩辛…ほのかな甘み、コリコリとした食感。


瞬きもせず食材を眺め、味わい、ひたすら食材のメモをとって利尻の方々とお話をする夜は、ワクワクし気分も乗ってきます。

「どうだ~利尻の食は?」
「おいしいです!!!」

相当な量の食事に舌鼓を打ち続ける私の姿は、 周囲を驚かせ、
「この子にもっと食べさせなければ」という、 まるで育ちざかりの高校生に対するような空気感と奇妙な展開を生み出ました。

「他に食べきゃならないのは…。
そうだ、例の『おにぎり』はどこで食べれるんだっけか?」
「あー、ムネのとこだな。」
「よし、行ってみよう!」

ムネのとこ?疑問を抱えつつも未知なるおにぎりを目指し、お店を後にした夜更け。この後、私は驚きの食に出会います。

写真 文
辻原 真由紀

2016年09月29日

離島入門

離島入門 第9回 食材探しの旅 利尻島2

「時間がないんです!お願いします!」
img_4237

稚内空港に着き、フェリー乗り場に向かうバスに乗ろうとすると、こんな声が聞こえ てくる。パンツルックに黒いショルダーバッグと小さなキャリーバッグ、そして右手 に小さな旗。ああ、ツアーコンダクターの方だ。とすぐに分かりました。

6月の稚内行きの機内は、身軽な一人旅らしき人や、トレッキングが似合いそうな活 動的なご夫婦などで賑わっていました。一方、自分の恰好は、背中にリュック、大き なスーツケース、片手に紙袋。明らかに浮いているこの姿もすべては島で使う「武器」のため。そう、荷物の半分を占めるお菓子は初めて会う人とお近づきになるのに 欠かせません。美味しいものは人を明るく幸せにするというのが私の信条。
羽田空港のお店の人に、「海外にご出発ですか?」と屈託のない笑顔で話しかけられるが気に しない。気にしない。

バスは満員。体はなんとか入り込むスペースはあってもスーツケースまでは乗り切ら ない。今このバスに乗らなければ。早くも信条が揺らぎ、大荷物を恨みつつ立ち尽く していると、さっきのコンダクターさんがこちらに気づき、

「大丈夫?ほらここ、荷物と一緒に乗って。」
と、バスのお客さんに奥へ一歩詰めるよう声をかけてくださいました。

話を聞くと、バスに乗っていた殆どがこの方のツアー客で、飛行機の遅延により、あと十数分で稚内駅に着かなければ間に合わないらしい。そんな状況下でも私を気遣っ てくれたことに感謝が湧く。ドアが閉まり、深刻な表情でコンダクターさんと何やら 話し合った後、運転手さんはマイクを手に取りこう聞きます。

「JR稚内駅以外をご利用の方?」

誰も手を挙げない。私は途中駅で下車し、現地の市場を回ろうと思っていました。おそるおそる私が手を挙げる。
「ザッ」と車内中の人がこちらを向く効果音が聞こえる 気がする。

「お客さん、悪いねえ。急いでなかったら、先に稚内駅に直行してもいい?この人た ち、列車に間に合わないかもしれないんだってさ。」そう言う運転手さんに、私は、 もちろんです、急ぎましょう、と答えました。運転手さんは頷いてマイクをとり、

「えー、緊急事態のため経路を変更します。いつもより余計に軽やかに進みますので お気を付けください。」茶目っ気あるアナウンスに、笑いが起こり、車内の焦った雰囲気が弛緩し、一体感が生まれる。

バスは猛スピードで稚内駅を目指し、何とか時間前に到着しました。乗客が次々運転 手さんにお礼を言って降りてゆき、事情を聞いたコンダクターさんは、「ありがとね、食材探し、頑張ってね。」と声をかけてくれました。

img_4236
乗客皆が降りた後、運転手さんは大きなバスに私一人を乗せて、目的地の市場まで直接送り届けてくれました。私が旅の事情を話すと、運転手さんは島のいろいろな情報を教えてくれました。

お礼を言って運賃を払おうとすると、 運転手さんは、こう一言。
「ご協力のお礼に、お代は要らないよ。」

当時の外気は15度。それにも関わらず、心は温まり、まだ見ぬ土地へ行く気合も高まったあのバスには感謝です。

写真 文  
辻原 真由紀

2016年09月15日

離島入門

離島入門 第8回 食材探しの島旅 利尻島1

離島キッチンでは毎月スタッフ1名が好きな離島に「食材さがしの旅」に出かけます。
そこで出会った農産物や海産物、現地の方々のお話しをもとに、
月替わりの「今月の島の特別メニュー」をお出ししています。
およそ一年前、私が離島キッチンのスタッフ募集に出会った時のことです。
給与、休日、福利厚生...。
求人募集を見るときはこういった条件を見なくてはならないのかもしれませんが、
とにかく仕事はその内容で決めよう、と思っていた私の眼には
それらの項目は殆ど目に入ってきませんでした。唯一、私の目に飛び込んできたのが、
 
「福利厚生:食材探しの島旅(約1週間)」
 
の1行。そんな福利厚生聞いたことない。
 
知らないところに行って、まだ見ぬ食に出会う。それまで旅は好きだったけど、
自分の見たいものを見てやりたいことをやるいわば「消費の旅」。
でもこれは違う。小さい頃の憧れだった某人気旅番組のミステリーハンターのように、
自分で足を運び、触れて確かめたものを沢山の人に紹介する。
企業勤めの頃は旅が好きでも、行ける機会は滅多にありませんでした。
自分の旅を通して他の人にわくわくを与えられたら。ああどこに行こう。

10694472_841979435826763_3604092377586254546_o

と、まだ採用も決まっていないのに自分の妄想は膨らみました。
 
今でも、食材探しの島旅企画のことをお客さまにお話しすると、
「うわ~楽しそう!」と 目をキラキラさせる方が多いのも、「島旅」という言葉に素朴さや、
自らの足で何かを探す真っ直ぐさや強さへのイメージがあるからなのだろうと思います。
 
神楽坂店のオープン以来、毎月スタッフが島へと旅立っていきました。 
こうさんは小豆島。
佐藤さんは石垣島。
菊地さんは八丈島。
松本さんは対馬。...
皆帰ってきたときは、島の食材のみならず、歴史や島の人たちの暮らしぶりまで知っていて、
それぞれの島のエキスパートがお店に増えていきました。
 
そして、2016年6月。ついに私の番。
「辻原さんはどこの島に行くの?」
 
なんとなく、じめじめしている苦手な梅雨を忘れられるところに行きたい。

なんとなく、冬生まれだし涼しいところに行きたい。
そういえば、尊敬してやまないあの歌手の出身地は北海道。
あれこれ考えながら、だしを取ろうと手に取った昆布の「利尻昆布」の文字。

そういえば、あの大好きな銘菓「白い恋人」のパッケージは利尻島の風景らしい。
チョコが好きなら見てきなさい、と誰かに言われている気がする。

「私、行き先は利尻島にします。」
私はなんとなくの直感を頼りに、利尻島を目指し、羽田空港から稚内へ向けて出発したのでした。

文 辻原 真由紀
写真 幸 秀和

2016年08月24日

離島入門

離島入門 第7回「拘り」

「こだわり」とひらがなで書けば馴染み深い言葉ですね。
漢字でこう書くんだ、と知ったのは大学を卒業してからでした。

「ねえ辻原さん、挨拶でも、勉強でも、何か一つでいい。
自分でこれは大切だと思うことを拘って続けて表現しなさい。
必ず、続けてよかった、と思う日が来るから。」

これは、私が社会人となった初めての日に当時の上司からもらった言葉です。

当時は今とは別の銀行の仕事をしていて、新たなことを覚えるので精一杯。
「拘り」 と聞くと、気難しい顔の芸術家が語っているイメージで、
あまりピンときませんでした。
どこかの会社の社長さんが、「仕事の前に掃除をするとやる気スイッチが入る」 と言っていた記憶があって、私は毎朝職場の掃除をすることにしました。
すると、 「お客さま目線だと椅子についた埃が目立つな」とか、「ここにこれが置いてあると仕事がしづらいな」などと、仕事のヒントがあちこちにあり、この視点は掃除を通してでなければ得られなかったのでは、と思います。

今の私にとっての拘りの一つ、それは、ビールグラスです。
「とりあえず生で!」と いう一言が表すように、ビールはお客さまにお食事の最初にお出しする機会の多い存在。
ビールは、時間が経つと大麦由来の酵素と脂質が反応して臭いが出てしまいます。なので、お店ではどんなに忙しくてもビールグラスは必ず丁寧に泡をつけて手作業で洗います。

とある金曜日、スーツのネクタイを少し緩めつつ解放された表情の男性が 3 名。
私が運んだビールを見て、

「おっ、ここはいい店だね。」と言いました。どういうことですか?と聞いてみる と、

「ビールはね、グラスを綺麗に洗ってないと泡が綺麗に出ないのよ。このビールはきめ細かい美味しそうな泡が出来てるでしょ。これはグラスを丁寧に洗ってる証拠なんだ。だから、ここはいい店だ〜はい乾杯!!」

私への説明もそこそこに既に心はビールに夢中のお客さまでしたが、何とも嬉しい気持ちになりました。

ちなみに、前職の銀行で2年間掃除を続けているうち、職場のお掃除のおばちゃんと仲良くなりました。始めは勤務時間前に掃除をしながら世間話をする程度でしたが、
ある日、私が働く時間帯にお客さまとして自分を指名して預金をしに来てくれたのでした。自分の中での拘りが他の人に届いた時、新たな世界が広がるものと思っています。

綺麗に洗ったビールグラスの向こうに、どんな世界が見えるのか楽しみです。

文 辻原 真由紀
写真 幸 秀和