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2017年06月17日

行商日記

行商日記 第33回

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NHKの取材当日、中目黒の空は重たそうな雲に覆われていました。
朝の駅前はスーツ姿の方であふれていて、歩くスピードがとても速く感じられます。

離島キッチンが中目黒で販売するのは今回がはじめて。

休日のイベント会場であれば、キッチンカーも居心地が良さそうなのですが、
平日の都心だと、ガソリンの代わりに栄養ドリンクを補給させてあげたくなります。

数年前に隣の駅の祐天寺に住んでいたことがあったのですが、
その時よりも行き交う人々が心なしか冷たい表情に見えたのは、
生まれてはじめての撮影にナーバスになっていたからでしょう。

「佐藤さん、売れるといいですね」とNHKのディレクターさんの笑顔。

緊張しているぼくを和らげてくれるやさしい言葉も、
売れなかったらどうしようというプレッシャーに意識変換されてしまい、
ぼくは蚊の鳴くような声で「はい」と答えました。

昼の11時30分販売スタート、と同時にお盆をひっくり返したかのような雨、雨、雨。

傘をさしていてもびしょ濡れになるような大雨に、
「お前なんか取材される価値はないんだ」という天の声を聞いたような気がしました。

とはいえ、NHKのディレクターさんが段々悲しそうな表情に変わってきたので、
この時ばかりは一人でも良いからお客さまに購入していただき、
販売の風景をカメラに収めさせてあげたいというボランティア精神が芽生えてきます。

そして、ぼくは、傘もささずにびしょ濡れになりショップカードを配りはじめました。
行き交う人は、タオルでも配っているのかと勘違いして「なあんだ」とカードをその場で捨ててしまう方もいらっしゃいました。冷たい雨、雨、雨、雨。

そんな折、島根出身のご年輩の女性がぼくに小さなハンドタオルをくれました

「隠岐から来たの?この雨じゃ大変ね。ひとつもらおうかしら」

捨てる神あれば、拾う神あり。
ぼくはこの瞬間、人生の真理を垣間見たような気がしました。

「ありがとうございます!少々お待ち下さい」

取材陣もホッとしたような表情で、素早いカメラワークを披露しはじめ、
その甲斐あってか、次第にキッチンカーに人が集まりはじめました。

販売と撮影がうまく回りはじめ、ホッと一息つこうとした瞬間、
すこし離れたところで強面の男性が、ぼくをジッとにらんでいました。

文 佐藤 喬
写真 幸 秀和