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2016年02月04日

みんなの日誌

秋田のさざえと島根のさざえ

秋田出身のぼくは海沿いに住んだことがありません。

基本的には内陸部や山奥が多く、小学校の頃は
山猿のような少年時代を過ごしていました。

スズメバチの巣を撃退したり、
野犬に追いかけられたり、
高校生のカップルを冷やかしたりと、
里山を縦横無尽に駆け回って腹ペコで帰宅。

ある日、家に帰ると海の香りがしました。

限界近くまでお腹が空いているので、
ゴロツキのような目で香りのありかを探すと、
何かが網の上でジュウと音を立てて焼かれています。

「これは何だね?」と小学生のぼくは大人びた口調で母親にたずねました。
「男鹿のさざえが手に入ったのよ」と母親。

秋田には男鹿という日本海に突き出た半島があり、
鯛やさざえなど海の幸の宝庫として知られています。
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「にんにくとお酒、みりんと醤油で味付けしたの。食べる?」と母親。
ぼくは、生まれて初めてさざえのつぼ焼きをおそるおそる口にしました。

「美味いっ!」

さざえの肝は少し苦かったけれど、それもまた大人の味。
そして、にんにくの香りがさらに食欲を引き立ててくれる。

10個ほどあったさざえは、父親と母親に一個ずつ残し、
あとは全部ぼくの胃袋に収まったのは言うまでもありません。

あれから、幾年月。

海士町でバーベキューを行う機会があり、
さざえを焼くことになりました。

ぼくは少年時代の思い出に浸るように、
さざえに醤油をかけようとすると、海士町の人が驚きます。

「え、さざえに醤油をかけるの?」
「え、さざえに醤油をかけないんですか?」

秋田と島根の文化の違いが浮き彫りになった瞬間。
そこで、しょうゆの代わりに出てきたのが「こじょうゆ味噌」でした。

ちなみに、こじょうゆ味噌とは醤油の代わりに愛用されている
海士町の万能調味料で、醤油と味噌の中間の味わいが楽しめます。
※麹のことを「こじょうゆばな」と呼んでいます。

ぼくは半信半疑で、さざえのつぼ焼きにこじょうゆ味噌を付けて食べました。

「美味いっ!」

そんなぼくの姿を海士町の人は誇らしげに眺めています。

今までの人生でさざえを食べて「美味いっ!」と叫んだのは
おそらくこの二度だけ。秋田のさざえと島根のさざえ。
また、どこかで新しいさざえの味に出会えることを願っています。

文 佐藤 喬
写真 幸 秀和